「滋賀県高島市の特産品アドベリー」について…

 

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain 【道の駅あれこれ:その2】

 

今日は,道の駅「藤樹の里あどがわ」にお散歩に行った時に見つけた“アドベリー”について調べてみました.

 

  

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain アドベリーとは

 

滋賀県高島市ではアドベリーという特産品を活かし,さらに道の駅と連携することで地域経済の活性化を図っています.

 

アドベリーとは,主にニュージーランドで栽培されているボイズンベリーのことです.赤紫色のこの果物はベリーの中でも大きい種類であり,約8gに成長します.

 

このボイズンベリーを安曇川町(あどがわちょう)で生産するにあたり「アドベリー」との呼び名が付けられました(安曇川町は2005年の合併により,現在は高島市となっています).「アドベリー」の名は商標登録されています.

 

2006年6月に滋賀県内13番目の道の駅としてオープンした「藤樹の里あどがわ」.

「藤樹の里あどがわ」を新設することが決まった当時,特徴のある地元特産品を生み出そうとボイズンベリー栽培への取り組みが始まりました.2003年,地域の農業者・加工業者・流通業者で組織された「アドベリー生産協議会」が設立され,その協議会を中心に日本初のボイズンベリーの産地化に着手しました.

 

高島市の取り組みは「アドベリーによる第6次産業の創造」と位置づけられています.

 

【第6次産業とは】

 

1次産業(農林漁業)×2次産業(製造業)×3次産業(サービス業)=6次産業

という考え方に基づく6次産業とは,農林漁業従事者による製品の加工や小売への取り組みのことで産地直売所の設置や加工品の販売,農家レストランも6次産業の取り組みとして捉えることができます.これらの事業は,農林漁業の活性化につながると言われています.

また,現在では2次や3次産業の従事者による1次産業への参入も6次産業の一形態となっています.

 

6次産業を言う言葉を提唱したのは今井奈良臣氏です.
1994年に「農業分野に2次産業・3次産業の分野を取り入れ,農村の活性化を進展すべきである」との理念に基づき,この概念を提唱しました.また,各産業の“寄せ集め”ではなく“総合的結合”が必要であるとの発想から,“足し算(+)” ではなく “掛け算(×)” になったのだそうです.現在は,足し算で表現されるケースもあります.

 

このような概念が提唱された背景には農産物(第一次産業)に対する需要の低下や販売価格の下落による農家の所得減少,農村活力の低下,さらには高齢化に伴う農業の担い手の減少といった現状があります.

第1次産業に従事する人が直接的に加工を手がけることで農産物に付加価値を加え,また,直接販売を手がけることで所得の増加が見込める取り組みなのです.

 

2012年に成立した略称「6次産業化法」では,認定を受けた6次産業に取り組む農林漁業者が農地転用手続きの簡素化や加工・販売施設の整備に関する支援といった特別措置を受けられるようになりました.
このように,6次産業化浸透の背景には政策的支援があります.近年では,TPP加盟交渉が進む中で農業の強化を図る一手段として「6次産業化」が注目されています.

   

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain アドベリー生産協議会の取り組み

 

高島市での取り組みが始まるまで,ボイズンベリーの本格的な栽培は日本で行われていませんでした.商業的な栽培技術が確立されていないだけではなく,苗の入手も困難な状況にあったのです.そこで,ニュージーランドから苗の提供を受け,さらには栽培や加工の指導も受けました.

アドベリー生産協議会がニュージーランドの協力を得てプロジェクトを進めることができた背景には,内閣府が主導する地域再生計画の認定や日本貿易振興機構(JETRO)のLL事業の採択を受けたことがあります.

 

【LL事業】

 

ジェトロは,1996年より地域産業の国際化を支援するために「ローカル・トゥ・ローカル産業交流事業(LL事業)」を実施しており,国内と海外の経済交流を支援しています.(2006年度以降は地域間交流支援事業(Regional Industry Tieup Program)として実施されています).支援を通し,技術の提携や部品の相互調達など多様な交流を展開することで,地域経済の活性化を目指す事業です.

 

これらの支援体制を活用したアドベリー生産協議会は,ニュージーランドのボイズンベリー農家組合と合意書を締結することができました.

2005年には収穫祭を実施し,地域の人々にアドベリーの効能や味を周知するPR活動を行いました.さらに事業の認知度の向上や事業参加者を増やすために,特産品を扱うイベントへの参加や食品加工に関する新規開業説明会も行っています.

 

このようにアドベリーを通して,地域の人々の自主的な経済活動を促進しています.6次産業の育成は,雇用の拡大を伴い地域経済の活性化につながるケースもあるのです.

 

お菓子や飲料に加工されたアドベリー商品の販売拠点となっているのが道の駅「藤樹の里あどがわ」です.

 

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道の駅におけるアドベリーコーナー運営は売上に大きく貢献しており,ジュースやお菓子など約50種類の加工商品が特産品として販売されています.
地元の人だけではなく,他県に住む人が訪れる機会の多い道の駅で販売することで,多くの人に「アドベリー」を知ってもらえますね.

 

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日本で生産されていないボイズンベリーに着目することで,安曇川町は「アドベリー」という地域ブランドを構築しました.

新たな地場産業の創出に成功したアドベリー生産協議会ですが,さらなる販路拡大や,ブランド確立を確かなものにするため毎月会議を開き事業計画や認証制度などの協議を重ねています.

  

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain 地域ブランドの構築

 

ニュージーランドとの契約によりアドベリーの栽培地域は安曇川地区に限られており,地域ブランドの確立に役立っています.
また,協議会の中に組織される「アドベリー商品認定委員会」において商品の認定を行うとともに商品のレベルアップを図っているそうです.学識者や栄養士などで構成される委員会において認証を受けた商品には認証シールが貼られます.

これは「アドベリー」という地域ブランドを形作る上で重要な取り組みだと考えられます.

 

参考文献にある農林水産省大臣官房企画評価課知的財産戦略チーム(2011)では,地域ブランド化の成功要因として,品質を保証する名称・マークなどが管理されていることを挙げています.栽培基準を設けることや商標権を取得し名称を保護することで,消費者の信頼を構築する重要性を指摘しています.

 

また,アドベリー製品は,ターゲットをしぼり商品開発が行われています.
「ベリー」は女性のイメージが強いことから,商品の主なターゲットとなっているのは “女性” なのだそうです.さらに「欧米で人気の健康果実」というPR活動を行うことで,消費者を惹きつけています.実際,アドベリー(ボイズンベリー)はビタミン類や食物繊維が多く,抗酸化作用のあるアントシアニンを多く含む食材です.

食の安心・安全の観点からも無農薬栽培で生産されるアドベリーは強みを持っていると言えます.

 

自然環境を活かした農業,食品加工の製造業,そして販売までをアドベリー生産協議会が中心となり,生産から商品化までを管理する体制を構築していることが成功の要因だと言われています.

  

f:id:osanpowanko:20140227173908p:plain アドベリーのこれから

 

【弱点と発想の転換】

 

アドベリーは鮮度が落ちやすく,賞味期限は収穫してから2日程度なのだそうです.
生果実としての流通は難しいという欠点はありますが,その特性を生かし,ここ高島町に来て生で食べてもらえる機会をつくり,当地でしか体験できない観光プログラムを開発しているそうです(滋賀県が行ったヒアリング調査より).

また,アドベリーは農産部会員以外にはアドベリー栽培が認められていません.これは,ブランド価値を高める一方で,製品の原料となるアドベリーの確保を困難にしている要因とも言えます.さらに,アドベリー栽培は機械化が難しく初期費用もかさむため,生産農家の確保や増加が課題となっています.事業参加者の増加を図るために飲食店向けのアドベリー事業説明会を行っていますが,アドベリー以外の品目で,地域振興を図っていくことも考えられています.

 

【たかしまベリー・フルーツの里】

 

高島市では「たかしまベリー・フルーツの里」として地域活性化を図ることが今後の目標となっています.

アドベリー産地化に成功した高島市は,もともとブルーベリーなどが生産されていた地域です.ベリー栽培に適しているという地域性を活かし,ラズベリーやブラックベリーなど新たな果物の試験栽培を始めています.アドベリー事業を新たな取り組みにつなげることで,アドベリーの生果実と加工品だけでは限られていた雇用を増加させる狙いがあります.

 

高島市の取り組みは「食品産業クラスター」の創出と捉えることができます.「食品産業クラスター」とは齋藤修氏によって提唱された概念で,地域に集積した農業と食料・関連企業を連携させ,商品とサービスに付加価値をつけるという考えかたです.産業の集積は,地域ブランド化の効果が期待できるとされています.

これは6次産業化とも関連があります.
地域資源と産業を結びつけて活用することにで,農林漁業者が生産・加工・販売を一体化することで所得の増大が見込めるのです.

 

高島市はアドベリー事業を通して,地域の人々の自主的な経済活動を促進するとともに,ベリーフルーツの里としての高島市の認知度を高め,観光と結びつけることで,地域の活性化を目指しているのです.

 

つぎは何を調べてみようかなぁ...

 

【参考ホームページ・参照文献】

 

アドベリー生産協会(2006)『健康果実「アドベリー」による第6次産業の創造』滋賀県高島市.
齋藤修(2008)『食品産業と農業の連携をめぐるビジネスモデル』NIRAモノグラフシリーズNo.17.
滋賀県大津財務事務所(2008年)『「アドベリー」を核とした地域活性化 ~地域の新たな特産品を目指して(滋賀県高島市)~ 』近畿財務局.
全国農業改良普及支援協会(2011)『 6次産業化による農業・農村の活性化手引き書!』全国農業改良普及支援協会.
高柳長直(2011)『農山漁村における新商品開発の過程と特徴に関する一考察』東京学芸大学地理学会.
農林水産省『6次産業化パンフレット』農林水産省ホームページ.
農林水産省大臣官房企画評価課知的財産戦略チーム(2007)『農林水産物・地域食品における地域ブランド化の先進的取組事例集』農林水産省.
掘千珠(2011)『農林漁業の6次産業化』みずほリサーチ.

 


アドベリー生産協議会:http://www.adoberry.jp/index.html
経済産業省:http://www.meti.go.jp/
近畿農政局:http://www.maff.go.jp/kinki/index.html
滋賀県:http://www.pref.shiga.lg.jp/